2001.4.30

子供について 特別編1

◆次女の入院と私の変身のはなし

 主人が、次女の入院について「いずれ家内に」と書いていたので、よし、と思い、書いてみました。ただ、くわしい病状等については、次女の了解を得られている訳ではないので今はやめておくことにしました。
 題名は「次女の入院と私の変身のはなし」です。
 
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 母は強し・・とよくいいます。普段、私は強くもなく(どちらかといえば優柔不断で弱虫)誰かを守るなんて事とは縁がないし、すぐ自分が何かヘマをやったのではないかとビクビクし、嫌な事から逃げられるなら逃げたいと思っている人間です。
 だけど、やっぱり母は強い・・らしいのです。
 
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 次女が入院した直接のきっかけは、ひきつけだった。その時次女がお世話になっていた方から「ひきつけてS医院にいる」と電話があり、私は長女が熱性けいれんの体質だったこともあって、そんなに心配しなくても大丈夫だろうと思いながら、かかりつけのS医院へむかった。5分ほどでS医院に着くと、予想に反して、まだけいれんしている。熱はない。先生は「ここではどうしようもない。すぐに大きな病院へ行きなさい」とあせった様子でおっしゃった。
 不思議なもので、長女が熱性けいれんを起こして呼吸が止まったときもそうだったが、すうっと気持ちが変わる。「落ち着く」・・とはちょっと違うな。「肝が座る」というか、「強い母モード」になるというか、とにかくそんな感じ。非常に冷静に「この子は私がいるのだから大丈夫」という気持ちが湧いてくる。  今思うと何の根拠もなくて笑ってしまうが、きっとその時は「変身」しているのだ。「母」に。
 
 次の病院に運ぶあいだ、固まっている次女を抱いて「大丈夫。ママがいるからね。お姉ちゃんが息止まった時もママが助けたんだからね。絶対大丈夫。」と話し掛け続け(ドラマみたいだ)、病院では先生に「朝、食べ過ぎちゃったせいかも」などと冗談まじりに話して逆に「本当にそうだったらいいんですがね」とたしなめられるくらい気持ちに余裕があった。
 しかし、さすがに、CTスキャンの結果を見せられ、「転院しましょう」と言われた時はまさに目の前が真っ白になった。涙がすごい勢いで目に集まってきて、でも泣いちゃいけないと思うから、目頭が「熱くなる」どころか、痛かった。でも、その時は私しかいなかった。泣いている場合ではない。
 
 M先生は女医さんだった。早口でてきぱきと話をする人だった。てきぱきと説明をし、時に笑顔すら見せながら、私の荷物を持って(私は次女を抱いていた)転院に付き添って下さった。転院のための救急車の中でも、いろいろと話して下さり、私も黙っているよりずっと気持ちが楽だった。症状について質問したり、普段の次女の様子などを話したり、また、M先生からの質問にも割とハキハキと返事をしていたように思う。
 転院先の病院の受付で待っているあいだに、ぽろっと「私がしっかりしなきゃいけないですね。」と言うと、先生は目を開いて、「どうして?そんなことないわ。」とおっしゃった。おどろいた。「しっかりね」とでも言われそうなものだが、きっと先生は私がバリバリに張り詰めていたのをわかっていたのだろうと、今になって思う。おまけに、もうすぐ売店が閉まる時間だから、ともかくお弁当を確保していらっしゃい、と夕食の心配までして下さった。そして、諸々の手続きが済むと、私がきちんとお礼を言う間もなく「じゃ。」と手を軽くあげて帰って行かれた。
 
 その後の次女は、転院先の病院で素晴らしい先生に担当していただき、先生の的確な判断のもとで治療を受け、これまた素晴らしい看護婦さんたちにかわいがっていただき、(赤ちゃんだったこともあって、ほとんどエコヒイキ的かわいがられ方だった。看護婦さんの笑顔に、付き添いの私もどれだけなぐさめられたかわからない)半年後にはすっかり元気になった。
 
 退院後の検診で、M先生にたまたまお会いできた。廊下でお見かけし、「先生!」と急いで声をかけると、くるっとふりむいて、「ああ。えーと、林さん!」と笑顔で答えてくださった。「その節は・・・」とお礼を言いながら、自分で自分が、以前先生と話した時と全然違う人間になっているのに気がついた。話すテンポも遅いし、気持ちもフニャフニャだ。なんたって、あの時は天下無敵の「母」に変身していたのだから仕方ない。それにしても、こんなにチガウとは・・。先生があの時と変わらずてきぱきとしているので、自分の変化があからさまにわかってしまう。先生は、簡単なアドバイスをして下さったあと、「大丈夫。あなたならやれるわよ!」と肩をポンとたたいて、また颯爽と立ち去って行かれた。うわあ。先生。ごめんなさい。あの時の私はちょっとチガッたんです。
 
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 いつ、変身が解けてしまったのか、自分でもわかりません。世の中のお母さんたちは、程度の差はあっても、みんなこういう経験があるのかな。不思議です。

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